小説・文学系の話題が主。ときに自作を載っけたりもする予定。ときにリアル話題。

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続けて更新します。



リトバス小説第6話です。







 謙吾は女子たちにその後つれていかれた。
 真人が地面に手をついていた。
「ありえねぇ……何であいつだけ……」
「ん? 何だ。まだいたのか真人」
「きょ、きょうすけぇぇぇっ!」
「うわ何だ汚ぇな! 手で鼻水を拭いてそのままで触るんじゃねぇ!」
「だってよぉ……だってよぉ……理樹は鈴と一緒だし、謙吾に至っちゃあの女子の数だぜ!? 踊りに列ができるとかさすがのオレでもまだ見たことねぇぜ! さっきからオレも筋肉浮き立たせているのに誰も声かけてくんねぇ……これっておかしくねぇ!? やっぱ顔なのか? 謙吾の野郎は顔で……」
「そうとも限らんだろう」
「じゃあ何だってオレだけこんなザマなんだぁぁぁ……!!」
 泣き崩れる真人に恭介は面倒そうな表情をする。
 だが、また何か面白いことを考えついたのか、急に声色を変えて、真人に話しかけた。
「真人」
「ん、んだよ」
 恭介は真人の両肩に手を置く。
「おまえがそんなツラしてるなんて、何かガッカリだな。俺はおまえなら謙吾よりもいいポジションに行くと常々思っている」
「そ、そうなのか?」
「俺はどう控えめに見積もっても、そうだと思う」
 恭介は目をじっと真人のものと合わせている。そこから離さない。
「ま、俺はおまえ次第だとも思っているけどな」
「オレ、次第……」
 真人はだんだん自信を取り戻していき、不敵な面構えとなる。
「恭介よ」
「何だ」
「何だかすっきり目が覚めた気分だぜ……」
「そうか。ま、俺は感謝なんかいらんがな。友人のことを正しく評価しない奴らに腹が立つのは当たり前だろ?」
「へっ、へっへっへ……」
 恭介はニヤリと笑う。
「オレ様はどうやらあまりにも筋肉の使い処を誤っていたようだぜ……」
 いつものことじゃないか、と恭介はこっそり思う。
「恭介。オレは次にどうすればいい? どうすりゃ、あの馬鹿面下げた謙吾の野郎をぶっ潰すことができるんだ」
恭介はポケットから帽子とサングラスを取り出した。
「何だこりゃ? 野球帽? ……で、サングラス?」
「簡単に覆すことが可能だぜ……」
真人はその二つのアイテムを身に付ける。
「夜なのにサングラスはねーだろ」
「おおいに意味があるさ。さておまえには、特設ステージに上がってもらう」
「と、特設ステージィィ?」
「ああ、そうさ。あそこにもう用意されている」
「オレに何をさせるつもりだ?」
恭介は何も答えず、放送席の方へ向かった。
真人は追いかける。
「おまえはこっちじゃない。向こうだよ」
「な、何だぁ?」
真人は何が何だかわからないまま特設ステージに上がる。
見回すと、ここで演奏会でもやるつもりだったんだろうか、音響機材が両側に配置されている。
突然強い光がステージに当てられた。恭介が機材をいじっている。
それまでずっと穏やかに流れていたフォークソングが打ち切られ、しばらくすると激しいビートのヒップホップが流れ出す。呆然とする一般の人々。真人は何をどうしていいか分からなかったが、とりあえず音楽に身を任せてみた。
「HEY YO! 筋肉、筋肉! チェキラッ!」
恭介はマイクをステージに向かって投げる。
真人はそれを受け取って、電源を入れた。
何だかよく分からなかったが、真人はとにかく恥ずかしくないようにビートに身を委ねた。
真人はマイクに口を近づけて思い付くままに筋肉を賛美するラップを歌ってみた。歌詞はひどかったが、とにかくテンポが良いので、先ほどまで踊っていた人々もテンポに乗りだして体を上下に振り出す。
真人はこう考えていた。
「オレ、どうしちまったんだろう……歌なんて下手くそなのによぉ、とにかく誰かノッてくれたんなら、やるしかねぇ-」
しかし、だんだんと高じてきた。
真人の筋肉のことを讃える歌詞は尽きることがない。
真人の筋肉の愛情は世人の心に届き、ビートは体の炎を一層煽らせていた。
真人はついに帽子をあみだに被り、マイクの位置を変えた。誰も真人をこの地元の男だと信じておらず、一流のラッパーが来ていると思った。美しく鍛え抜かれたからだとその音楽的才能ゆえに、誰もがこの噛み付かんばかりにマイクに向かって叫んでいる男に時めいたのだった。……こけている理樹と鈴、謙吾を除いては。

「アホか。めっちゃ恥ずかしかったわ!」
真人は鈴も少しは自分を見直しただろうと思っていたので驚いた。理樹は溜息をつく。悪いのは恭介だと知っていたからである。
「また聞きたくなったら聞かせてやっからよ」
「もう二度と聞きたくない。だいたいおまえ、何であたしたちと一緒にいるんだ?」
「ひどっ! そりゃひど過ぎねぇ!? 鈴!」
鈴は真人と同類だと死んでも思われたくないと言った。謙吾は、溜息をついて、
「まあまあ鈴、こいつだって、何もそこまで言われなくとも分かっているだろう。何で自分が鈴から顰蹙を買っているのかはな」
「まあ、鈴から嫌われるのは仕方ないんじゃないかな……鈴、目立つの嫌いだから」
真人はそれを聞いて、財布を取り出した。
「そうか……すまねぇ、鈴。オレ様はどうやら言われて初めて気がついたようだが、オレはおまえから顰蹙ってもんを買いたい。いくらだ? 教えてくれ」
「知るかぼけ――――っ!」
鈴は真人の顔面に蹴りを叩き込んだ。

鈴は真人のボケと、理樹との楽しい遊びを邪魔されたことでプンプンしていたが、恭介は反対にとてもご機嫌だった。自分の仕掛けがうまくいって、理樹たちが恭介の予想した以上の反応を見せてくれたからである。
恭介は言った。
「さぁて、そろそろ次の風物詩を味わうことにするか」
「次の、って?」
「ふ」
恭介はほくそ笑む。
「そろそろ体も熱くなってきたんじゃねーか?」
「体? あぁ……火の近くで踊ったから汗かいたね」
「ああ。オレも少し汗をかいてしまったな。まったく、踊り疲れたぞ」
「てめーっ! 謙吾!」
謙吾は不思議そうな顔をする。
何に対して怒られているのか理解してないのだ。
謙吾は一気に埋まってしまった携帯のメモリを見て溜息をついた。
「真人も鈴も、それぞれ汗をかいたようだな……どうだ、その汗、洗い流すことにしないか?」
「洗い流す?」
「銭湯にでも行くってのか?」
恭介は断言する。
「そのような必要はない」
「あ? わからねー野郎だな。じゃ、いちいち全員帰宅してひとっ風呂浴びて来いってのか? んなことしたら盛り下がっちまうじゃねーかよぉー」
「だから、そんな必要はねぇ」
恭介は歩き出した。
「あ、待ってよ恭介」
「オーイ。そっちは何もねぇぞぉ――! ったく、何だよあいつ。すねたのか?」
「貴様じゃあるまいし。そんなはずはなかろう」
「あ!?」
恭介の声が聞こえる。
「おーい! 何してんだ! 置いてくぞぉ!」
「え? あれ? ど、どうしたのかな?」
「あいつまさか、熱中症で見えないもんが見えて――」
「海に行くんだ! はやくしねぇと俺一人で行っちまうぞぉー!」
「はぁ???」
「海??」
「あいつ、やっぱり頭おかしく……」
 鈴が何も言わずに駆けていく。
「あ。待って鈴!」
「待て鈴!」
「お、オイオイ。ったくしゃあねぇーなぁー。海なんてよぉ、さすがのオレ様でもここに取り寄せることは無理だぜぇー」
 真人もついていく。
 恭介はどんどん校庭の隅の方まで歩いていく。
 祭の音楽は次第に遠のいていく。
 理樹たちは月明かりだけを頼りに恭介の後を追って行った。
 恭介はある建物の前で止まった。
「あれ? ここは……」




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2012.11.02 / Top↑
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