小説・文学系の話題が主。ときに自作を載っけたりもする予定。ときにリアル話題。

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友達・4話です。


お待たせしました。


 
 ぼくが翌日、またもや勉強できる場所を探して歩いていると、
「直枝」
 遠慮がちに声をかけられた。佳奈多さんだった。
「あ。その、」
「私の罰はまだ終わってないんだけど」
「え」
 佳奈多さんは不安を追い払うようにまくし立てる。
「ほんとうはあと一つ仕事を頼むはずだったのに、あなたがあんなことするから、変な感じになって言い出せなかったじゃない。あと一つ残っていることを伝えたいのに、あなたと私は携帯番号も教え合ってなかったんだもの。呆れたわ」
「う、うん」
 何だか謝った方がいいのか、それともこのまま聞いておいた方がいいのか、わからない。
 携帯番号か。
 そういえば、まだ交換したことなかったな。
「で、仕事って?」
「それよりもまず携帯番号を教えます。次にあなたのを教えて」
「あ、いいよ」
 佳奈多さんは昨日よっぽどこのことを伝え忘れたのを惜しがっていたのか、早速携帯番号を知らせようとする。
 葉留佳さんを介して教えてもらってもよかった気がするが。
 佳奈多さんの番号をこの季節になってようやく知ったのが、何か残念な気がした。
 もう受験だっていうこのときに。
「これが直枝の番号ね。メールアドレスも教えなさい」
「いいよ」
「言っておきますけど、仕事を頼むとき連絡がつかないと不便ですから、そのためだからね。勘違いしないでよ」
「わかってるよ」
 べつにたまには交換してもいいと思うけど。今何してるかぐらい。
 ぼくは佳奈多さんと普通の友達になりたいのだが。
 それはだめなんだろうか。
「で、あとなにやるの」
「これでよし。え……何?」
「いやだから、仕事」
「あ、そうね……」
 目を泳がせる。
 まさか、忘れていたのか。
「白い目しないでくれる? 私だって、たまには忘れるわ」
 品性を疑うような目を向けられる。なんだよ。
 佳奈多さんに限ってそんなことはないと思っていたが。
 仕事と活動の権化みたいな人なのに。
「えっと、私、あなたは知らないと思うけど、外から登校している生徒相手に先生に混じって校門での挨拶活動をしているの。あなたにはそれに参加してもらいます」
「ええ」
 まじか。ちょっと恥ずかしいな。
 受験生が何やってるんだろうとか、思われないかな。
 佳奈多さんは毎日やってるんだろうか。
「身だしなみが悪い生徒には逐一注意もしますし、先生に混じって持ち物検査をすることもあります。……何よ」
 ぼくが佳奈多さんの顔をじっと見ていたので、彼女はいぶかしそうにする。
「毎日それやっているの?」
「そんなわけないでしょ。さすがに。週一くらいよ」
「一人で?」
「風紀委員長として当然でしょう」
 まじまじとぼくは彼女の顔を見つめた。
 感心するなあ。ぼくと同い年の女の子が。
 佳奈多さんの場合、ほんとうに自分から進んで活動しているんだろう。
 それはすごいことだと思う。
「何?」
 ぼくの遠慮ない視線がわずらわしいと思ったらしく、苛立つ彼女。
 ぼくは苦笑した。
 ただすごい人だと思っただけだ。
「どうせ点数稼ぎみたいだなとか思ってるんでしょう」
「そんなことないよ」
「ふぅん。どうかしら」
 そっぽを向く彼女。
 そんなところが、孤高である佳奈多さんらしいが、褒められるのに慣れてないらしい。満更でもなさそうにしている。
「いいことじゃないかな」
「どうして?」
「どうしても何も……佳奈多さんみたいな人がいるだけで」
「え」
 すっとんきょうな声を上げる。
 よっぽど意外だったらしい。
 佳奈多さんみたいな人がいれば、ぼくたちも自分の姿を見直す機会が出てくるだろう。もちろん、真人みたいな人には効果はないかもしれないが、ぼくは少なくとも、彼女の姿勢が良いものだと感じている。
 それを恥ずかしげもなく認めることができるのは、ぼくも少しは成長したということか。
 彼女はどうしていいのか分からないと言った感じで、視線をさ迷わせつつ、こちらをちらちらと見る。
 照れているのかな。もしかして。
「あ、あんまり、ちょうしに乗るんじゃないわよ」
「あ、うん。ごめん」
「でも、そう言ってもらえたこと初めてだから」
「そうなの?」
「そう。だから――って、何言わせるの!」
「ごめん」
「はぁ」
 溜め息。
 彼女はぼくがこんなに彼女のことを尊敬しているなんて知らないだろうな。
 若干とげとげしいけど、まれに見る性格の人だと思う。
 彼女と友達になれたら、きっといいことがあると思う。
 だがこんな卒業間近な時期だったのが、少し残念だ。
「ありがとう。直枝」
「え?」
「何でもないわ。さあ、用は済んだから、もう行くわ。勉強はきちんとやって、ときどき葉留佳と遊んであげて」
「う、うん」
 葉留佳さんといっしょにいるより、真人といっしょにいる方が長いと思うんだけどな。
 どう言ったらいいんだろう。
「じゃあ、明日の朝七時半に校舎前に来て」
「え。あ、うん。了解」
 早いな。これは早起きしなきゃ。
「あと詳細はメールするわ。きちんと返事しなさい」
「はいはい」
「それじゃ」
 佳奈多さんは手を挙げて、すたすたと足早に去っていった。
 何であんなにそっけないのかな。
 葉留佳さんに普段佳奈多さんがどんな感じか聞いてみたいけど、それはやっぱり失礼なのかな。
 どうしよう。
 
 翌朝、ぼくは起きて、すぐに顔を洗い、食堂に行った。
 朝練へと向かう部活動の子たちに混じり朝食を取り、早速校門近くへ。
 するともう佳奈多さんがいた。
 佳奈多さんは笑っていた。
「おはよう、直枝」
「おはよう佳奈多さん。何か、機嫌いいみたいだね」
「え? そうかしら」
 佳奈多さんは、自分の頬をぱたぱたと触っている。
「別にどうともないけど」
「いやでも、」
 ぼくが笑うと、彼女も笑顔になる。
「笑ってたよ。さっき。今もだけど」
「あなたが笑ってるんでしょう? 私はそうでもないわよ」
「そうかな。でも、すごく楽しそうだよ」
 すると彼女は赤くなって、腕を組み、そっぽを向いてしまう。
「からかおうったってそうはいかないわ。どうして私があなたとの活動を楽しみにしないといけないの?」
「べつに楽しみにしてくれてたならそれはそれで嬉しいんだけど……」
「え」
 佳奈多さんがとてつもなくびっくりしたような顔になる。
 ぼくのことをじっと見つめ、何か言いたげな顔になる。
 何かを伝えたがっているかのような。
「どうしたの?」
「……」
 佳奈多さんは、笑顔を消してしまった。
 さっきはぼくを見て、とても楽しそうにしていたのに。
 どうしてだろうか。
 何かおかしなことでも言っただろうか。
 先生がやって来て、ぼくたち二人に挨拶した。
 するともういつもの佳奈多さんに戻っていた。
 あの素っ気ない佳奈多さんに。それが何だか安心した。
 ぼくたちの間に何かあったのか、ぼくはそれを知りたいような気もしたし、知りたくないような気もした。
 ただ友達であれば、それでよかったのだが。だから、心配を忘れて活動に専念できるのは嬉しかった。
「おはようございまーす」
「おはようございます」
「おはよー」
 挨拶活動をしていると、こんなにも校外から通っている人たちがたくさんいることに驚く。そりゃ、寮生活が全てではないことくらい知っていたが、ぼくは寮生活をしている学生しか友人を持っていないので、彼らが新鮮だった。
 もちろん身だしなみの悪い生徒への注意は余念なしにやった。
 食ってかかりそうなガラの悪い生徒もいたが、そういうのはすぐに先生が担当してくれた。
 ぼくは比較的身だしなみのよい生徒ばかりを受け持つことができた。
 佳奈多さんはいつも通り、どんな人にも変わらない態度で接した。
 知り合いにも、知らない人にも、慕われている人相手にも、慕われてない人相手にも。
 佳奈多さんはそんな時、とても生き生きしているのと同時に、どこか、仮面を被って接しているように見えた。
 ぼくは知り合いに会うと、少し立ち話して、彼らと笑い合ったりもするのだが、彼女の場合、慕われている後輩と出会っても、素っ気なく済ませてしまっている。ぼくは、そこだけが少し心配だった。
 彼女はどうして、あんなふうに、感情を閉じてしまうことに慣れてしまったのだろうか。
 ぼくの心配し過ぎなんだろうか。
 真人たちが見物しにやって来た。
「おおーい、理樹」
「あ、真人。謙吾。鈴」
「感心だな理樹。でも、受験生なんだから、学校活動を熱心にやり過ぎてもよくないのではないか? だが、感心しておきながら水を差すのも悪いか。俺たち、ここで見物していてもいいよな?」
「え、恥ずかしいよ」
「あれ、あいつかなたじゃないか?」
 鈴が指差す。すると佳奈多さんがこちらを向く。
 世間話でもしていると思ったのだろう。
 不機嫌顔になり、そっぽを向いてしまう。
「なんか怒ってるな」
「鈴、あいつが何で怒ってるのか聞いてこい」
「うっさいやじゃ」
「ははぁん。三枝の姉貴が怖ぇんだな。カッ。見てな! オレの勇気あふれる勇者っぷりを!」
 人はその行動を、皮肉を込めて勇者と呼んだりもする。
 ビンタをされて帰ってくるその行動を。
「いい音だったな。悪くない」
「あたしも今度からびんたにするか。その方が効果あるかもしれん」
「少しはオレを讃えろよ! このオレ様の勇者っぷりをよぉ!」
 誰からも讃えられることがない。
 それが勇者なんだよ、真人。
「ところでいつの間に仲良くなりやがったんだ、あの女とよ、理樹」
「え? 佳奈多さん?」
「ああ、そうだよ。三枝の姉貴ってだけで知り合って、三年間ほとんど会話をしたことがねぇあいつとだよ!」
「三年間とは、おまえはいつ二木と知り合ったのだ?」
「あと嫌われてるの多分おまえだけで、あたしや理樹ははるかたちと一緒にいるときたまに会話するけどな」
「うるっせぇよ! それだとまるでオレが二木からうぜぇやつだと思われてるみたいじゃねぇか」
「実際そのとおりなんじゃないかな」
「うおぉぉぉ――――っ!」
「ちょっとあなたたち!」
 二木さんが眉根を寄せてぼくの前で大きく怒鳴った。
「邪魔するなら帰ってくれないかしら。とっとと行って予習でもすればいいじゃない」
「理樹よ。予習って何だ。オレに教えろ」
「真人は一体何しにこの学校に来たんだよ」
「直枝の邪魔はしないで」
 理樹ぃ、と真人の涙声が聞こえる。
 佳奈多さんはそれを一瞥だけで消し去ってしまう。
 どうやらすごい眼光であるようだ。
 しかし、確かにぼくも職務怠慢だったかもしれない。
 ぼくから真人たちに遠くで見ていてくれるように頼み込むこととした。
 挨拶活動がほとんど終わり、先生たちに、君たちも遅刻しないように急ぎなさい、と言われて校舎へと向かう途次、佳奈多さんがぼくをにらんで言った。
「あなたもあなただったわね。少しは恥じなさい。自分がどれだけ注意散漫だったのかを」
「ごめん。佳奈多さん」
「ふん」
 佳奈多さんは足早に昇降口に行って、靴を脱いだ。
 そして、
「ごめんなさい、直枝」
 ふと心細そうな声で言うのだった。
「え、何が」
「いろいろと考えてみたのだけど。……これまであなたを活動に付き合わせてしまったことをね」
「それの何が悪いの?」
「私の自己満足だったのかもしれないと思って」
 ぼくは、佳奈多さんはリトルバスターズの面々のことを気にしているのかと思って、こう返した。
「そんなことないと思うよ。真人たちのことは気にしないで。あれは全然怒ってなんかないんだからさ」
「そのことじゃないのよ」
 佳奈多さんは切なそうな目で見つめる。
「いい、直枝理樹。私は別にあなたが校則違反を起こしたとは、思っていない。でも罰を科した。それは結局、私の都合だったのよ。それに今、私自身が幻滅しているわ。もう二度と卒業まで私はあなたに会わないと思います。だから……その、受験がんばって」
 泣きそうな顔をして、佳奈多さんは行ってしまった。
 ぼくは彼女がどんな気持ちでそのことを言ったのか、あれこれ想像し、考えてみたが、結局は何もかもわからなかった。
 
 あれから、数週間が経った。
 ぼくは念入りに受験勉強を進め、だいぶ見通しが立ってきたのを感じた。
 難関校は勝負になるが、それ以下の学校なら問題なく合格できるくらいに。学校も熱を帯びてくる。
 佳奈多さんとは会っていなかった
 けど、葉留佳さんとは一緒によく遊んだ。あれ以来、ぼくは葉留佳さんと一緒に遊ぶことが自然になっていた。べつにあえてそうしたわけじゃないのに。彼女といると、自分が受験勉強をやっている身だってことを忘れてしまう。
 彼女の明るさは人を変えてしまうらしい。
 ぼくは彼女の視野の広さに驚くことがたびたびあった。
 彼女はいろんなところで、お姉さんに似た、まっすぐな心から来る認識を示した。すなわち、あらゆる常識を覆した、新しい見解、ぼくを受験勉強から来る切迫感や、苛立ちから救ってくれる、優しい、本来、人間があるべき姿をした価値観、とでも言えばいいのだろうか。
 うまい言葉が見つからない。
 彼女はとても頭がいいのだ。ぼくたちには、とうてい考えつかないことを考えつき、実行もすごく速い。
 佳奈多さんが大事にしているのも分かる。
 たまに限度を知らないので、こっちまで疲れることもあるのだが。
 でもどうしても憎めない。
 彼女は明るい。だからなんだろう。こっちまで明るくさせられるのだ。
 ぼくはそう信じている。
 最後には、彼女の手を借りることになってしまうのだ。
 佳奈多さんのことは、もうあまり思い出さなくなっていた。

 つづく


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2013.05.19 / Top↑
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