小説・文学系の話題が主。ときに自作を載っけたりもする予定。ときにリアル話題。

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 ぼくたちはここでいったい何をしているのか?
 そう、シンプルな作業。
 これはいわば仕事だ。
 でもどうしてぼくたちはこんなことをしているのかなあ。
 始めてみたところで、わかんない。





 
 昨夜、真人や謙吾に付き合って夜更かしをしたので、ぼくは遅い時間に起きた。
 まったく……すごろくバトルならぬ、「バトルすごろく」という、サイコロを振り、止まったマスにある、指定された数だけ相手に攻撃を加えるという、この上ない危険であり、また不毛極まりない遊びの進行役を務めさせられたぼくは、頭痛を抱えながらも友人の顔がどんどん凸凹になっていくという悪夢を見せられ非常に不愉快な気持ちを抱かせられて、最悪な気分で食堂へと向かった。
 消耗しきったぼくを出迎えてくれたのは、野蛮な友人たちとはうって変わって可愛らしい天使のような女の子、クド。
 そして隣で眠そうに重たげな目つきで、ゆっくりとごはんを食べている西園さん。
「ぐっもーにんです、リキー」
「おはよう……クド……」
「ど、どうしたんですか? なにやら顔色がひどく悪いですよ……?」
「あー……まあ……夜更かししてね……」
 頭痛がひどいので、購買で甘いお菓子を買って、糖分を補給することにした。
 これですこしはマシになるといいんだけど……。
「そうですか~……美魚さんと同じですね~」
「……西園さんも?」
「金曜の夜は積んだ本を消化すると決めていますので……」
「そうなんだ。ちなみにクドは?」
「わたしはばっちり元気ですよ! リキ!」
 クドの健康そのものといった笑顔がまぶしい。ウィンクまでつけちゃって、可愛さ満点。
「でも夜更かしなんてして、いったい何をされてたんですか~?」
「あ~……」
 ぼくが答えあぐねていると、
「朝食を取られないんですか……?」と、手持ちぶさたなぼくに、西園さんが顔を向ける。
「うん……体調が最悪すぎて……まだちょっと胃が動いてない感じがする……」
「ひょっとして……その、昨夜は、恭介さんとお二人で……」
「って、何だよ!?」
「いえ」
 ふふふ、と笑みを浮かべる彼女。
「すみません。わたしとしたことが、場所をわきまえずに……」
「いや、場所というより話題が問題なんですけど……」
「??」
「クド、いい? なんにもないからね! ただ真人と謙吾の勝負に付き合っていただけだから!」
 彼女は首を傾げていた。
「しょ~ぶ?」
「そう! くだらない遊びだよ……はああ、大きな声出したらお腹すいて来ちゃった。なにか頼もっと」
「お付き合いしますっ!」
 喜んで彼女はついてくる。
 ぼくが食券機にお金を投入するところも、キラキラする眼差しで見つめている。
「クド……その、朝食は?」
「え? わたし、ちゃんともう取りましたよ!」
「??」
 頭が動いてないのかなあ。
 ちょっと言っていることが理解できない。
「リキ。何にするんですか?」
「う~ん……じゃあ、これ」
 ぼくが選んだのは「玉子朝食」。
 玉子焼きと納豆と、お豆腐と、味噌汁とごはんがついてくる……まあ、ヘルシーだよね。
 意味不明なことにこの食堂には「カツ朝食」なんてのもあるけれど。
 真人以外の誰が食べるんだよ?
「リキ。水要りますか?」
「あ、うん。ありがとう。クド」
「いえいえ~」
「?」
 ニコニコしながらお水をウォーターサーバーから出している。
 クドは頼まないのかな? どうしてぼくにこんなに親切にしてくれるんだろ?
 まあ、クドは誰にも優しいし親切か……。
「ちょっと元気になってきたかも……」
「リキ~。はい、お水ですっ!」
 だとしたら、この屈託のない笑顔のおかげかもなあ……。

「お盆、持ってあげます!」
 どうしてこんなにクドは張り切っているのかな?
 ぼくの玉子朝食をテーブルに運んでくれているときも、何やら嬉しそうで、ぴょんぴょんステップを踏みそうなくらいだ。
「じゃ~ん。お待たせです~!」
「ありがとう。クド」
「直枝さん。いつから能美さんをメイド扱いするようになったのですか」
「ぶっ」
 噴きだす。
 彼女が冷たい眼差しをこちらに向けている……。
「ひょっとして、まさかそんなご趣味が……?」
「あのね? これは……」
「さ~! リキ。食べてくださいです~! ご飯食べたら元気出ますよ~! モリモリっと!」
「?」
「ん~??」
 ちょっと何やら、これはおかしいんじゃないか?
 明らかにクドの様子が変だぞ?
「あ、じゃ、じゃあ……いただきます……」
「どうぞっ!」
「ふう……ごちそうさまでした」
 一足先に食事を終えた西園さんが、トレイを持って返却コーナーへ行こうとする。
「あ、西園さん! ちょっと待ってください!」
「……はい?」
 うろんげな眼でクドを見据える。
「もうちょっとごゆっくりしていきましょ~!」
「……」
 西園さんと目がかち合った。
 やっぱり彼女もおかしいと思っているみたいだ。
「お、お話ししましょう! お話!」
「……それは構いませんが、食器は下げてこようと思います。では」
「あ、お運びします~っ!」
 席を立って、彼女の後を追っかけていくクド。
 怪しい!
 きっと何か隠してる!
 西園さんのお盆を、半ば引ったくるようにして、バタバタと返却コーナーまで持って行くクドは、まだ頭が半分も起きていないぼくからしても、挙動不審の権化のような有り様だった。
「お、お待たせです~!」
 冷や汗をかきながら戻ってくるクド。
 正直に言って、なにか言いたいことを隠している様子にしか思えない。

「あ……やっぱり、変だったでしょうか?」
「まあ……」
「かなり」
「しょんぼりです……」
 彼女が図星をつかれて、しょんぼりしている。西園さんとぼくで彼女を挟んでこんな有り様になっていると、まるでいじめの現場みたいだが、ぼくらはただ「なにか用事でもあるの?」と聞いただけだ。
「え~っと、え~っと……その、実はですね!」
「宿題が終わらないのですか?」
「はわっ! ち、違います! 宿題は……あ、やっぱり終わってないですけど、今日はそれよりも重要なことがあるのです! でぃすいず、いんぽーたんっ!」
「いんぽーたん?」
「 important :重要な、ということでしょう」
「うう……後で発音を特訓しておきます……」
 いやまあ。
 
 で、いったい何のことか聞いてみたんだけど。
「それがですね~……」
「うん」
「みなさん、わたし、部活に入っているの知ってました?」
「え?」
「知りません」
「やっぱり知らないんですか!」
 ど、どうかな……?
 知っていたような気もするが……どうもはっきりしない。
 まるで遠い夢の中のことのように混濁としている。
 でも確か……、
「家庭科部ですよ! よーく、覚えておいてくださいね!」
「そんな部があったなんて知りませんでした」
「がーんっ!」
 そうだ。
 確か家庭科部に所属していたはずだ。でも、そういえばあそこは……。
「でも、今部員はわたしひとりしかいないのです……」
「ええー」
「それは部、というより、ただの同好会なのでは?」
「いえ! れっきとした部です! ただ、風紀委員会の佳奈多さんから、お情けで続けてもいいって言われているだけで……部費はないです……」
 それを同好会って言うんじゃないんだろうか……。
「でも、今度こそ部存続の危機なのですっ!」
 いったい何なんだ?
 尋常な様子じゃなかったので、詳しく彼女に事情を聞いてみることにした。

 どうやら家庭科部というのは(同好会かもしれないが)、部費がない代わりに、とある学校の一室を使っても良いという許可があるらしい。
 それが「家庭科部室」で、畳のいい香りのする和室なのだが、あまりにもクドがメンバー集めを続ける様子がないため、風紀委員会から苦情が来たのだ。
 まあ、確かに、こんないい部屋をクドがひとりで占有しているのは、不公平と言えなくもないが……?
「そうしたら呼び出されて、活動日誌を出せと言われました……」
「日頃どんな活動しているの?」
「え? う~ん……編み物したり、お菓子作ったり……宿題やったり……」
「最後の一つは絶対に日誌に書かないでね」
「あ! あと、誰もいないので、心置きなく英語の発音の練習ができます!」
「……」
 ぼくは頭を押さえた。
 クド……それ、誰にも言っちゃだめだからね……?
 
 どうやら部(?)を存続させるためには、正式な活動を毎日続ける必要があるらしい。いちおうただ部屋を借りているだけだし、部費は出ていないから、ちゃんと活動日誌を提出すれば、厳しい風紀委員会も無理は言わないはずだ。
「編み物編み物たのし~な~♪」
 ひとり楽しげなクド。
 西園さんはもくもくと真剣に作業をしており、ぼくといえばただ見ているだけだ。
「リキはなにか編み物などしないのですか?」
「ぼく? うーん……やったことないしなぁ……」
「服のほつれなどはどうされているのですか?」
 あ。
 これってあんまり言わない方がいいのかな。
 鈴のお母さんに直してもらっている、なんて……。
「ほ、ほったらかし、かな……」
「直枝さん。少しはだらしないと思った方がいいですよ」
 がーん。
「今どき服のほつれや、取れたボタンを一人で修復できないようでは男性として失格です」
 とほほ……。
 鈴のお母さんのこと言わないでよかった-!
「さあ直枝さん。そのほつれっぱなしの服をここに持って来てください」
「え? 西園さんが直してくれるの?」
「はい?」
 彼女の眼差しがいやに鋭くなった。
「なにをおっしゃっているんですか? あなたがつけるんですよ」
「今すぐ取ってくるね!!」
 ぼくは駆け足で家庭科部室を出て行った……。

 クドのお願いとは、今日一日だけでも部員になって一緒に活動して欲しいということだった。
 ぼくと西園さんは臨時部員として書類を書いて、怪訝そうにしている先生に提出してきた。
 それで何をするかといえば、編み物だって……。
 西園さんはじょうぶなブックカバーを作るといい、クドもやりかけの編み物があったのでそれをやるという。
「いいですか? まず針に糸を通してください」
「え? よ、よしっ……」
 縫い針なんて家庭科の時間でしか持ったことないよーっ!
「おそろしく不器用ですね……直枝さん」
 むぐぐぐぐ。
 ゲロ犬を見つめるような目でこっちを見てくる。
「あ、リキ-。こうやって、一度舌につけるといいですよ~」
「え? よ、よしっ……」
「わたし的には、あまりそういった手法は好きじゃありません……が、仕方ないですね……」
 
 外れたボタンをもう一度つけるには、まあ簡単な話だが、シャツの裏側から針を通し、ボタンの穴に通して、もう一度裏地に出す。それをくり返していって、最後に玉結びをつくっておしまいだ。
「あ、ぐらぐらってなっちゃった……」
「リキ。わたしがちゃ~んとお手本見せてあげます!」
「あ、ありがとう……」
「いえいえ~!」
 クドが巧みな針さばきを見せて、ぐんぐん、それもとても美しく糸を折り重ねていき、しまいにはぴったりした固さでボタンが固定された。
 すごいなあ……。
 ぼくはもう一つボタンが取れてしまったジャケットを持って、服に合う素材を選び、再挑戦してみた。
 でもうまくいかない……っ!
「うんしょ、うんしょ……」
 クドはピンクの毛糸で、なにやら綺麗なものを作っているが、何だろう。
「能美さん。先ほどからずっと探しているんですが、ここにはミシンはないのでしょうか?」
「ありませんっ!」
 どうして嬉しそうなんだろう……?
「そうですか。まあ、簡単な小物ですから、わりとすぐできるでしょうね」
「わ~美魚さん上手ですね~」
「小さい頃からこういう仕事は自分でしていたので」
 うぐぐぐぐ。
「でも、どうして家庭科部なのにミシンもないの?」
 ふと疑問を口にしてみた。
「あ、リキ~……それはですね~……」
「うん」
「こわしちゃったからです!」
「ええー」
 だから、なんでそんなに嬉しそうなの?
「もうなが~いあいだ使ってましたし、それに……わたしメンテナンスの仕方もよくわかってなくて……ミシンに詳しい先生もいないですし」
「修理に出せばいいのに」
「お金がありませんっ!」
 そっか。部費ないんだった……。

 それから半時間もすると……、
「できました」
「おおー☆ 美魚さん、ぐっど・ぶっくかばー! です!」
 西園さんが手にしているのは、文庫本サイズの小さな緑色のブックカバー。
 試しに手持ちの本を入れてみると、さすが、サイズはぴったりだった。
「さすがです! ささっ、じゃあ、ここに早速日誌を書いてください!」
 嬉しそうだなあ。

 ブックカバーを作成しました。大事に使うことにします。臨時部員・西園美魚

「はあああ……♪」
 活動日誌を抱きしめて、ぴょんぴょん跳びはねるクド。
 よっぽど嬉しかったんだろうなあ。
 まあ、大事にしたい気持ちもわかる気がする。こんな和室、この部屋以外に学校に無いものね。
 クドはたぶん、この部屋にぼくたちには決してわからない大事な思いを抱いているんじゃないかな。
 だからこんな強引なやり方も、彼女にとってはたいした障害じゃないんだ……。
 すべてはその思いのため。か……。
「う~ん……さっきよりは、上達したかな……?」
 まだちょっとぐらついているけど、ボタンを合わせてみた感じ、ずいぶん安定感が上がったように思う。
「わーふぅー♪ じゃあ、直枝さんも、活動日誌を書いてくださ~い!」
「オーケー。書くよ」
 
 ボタンの付け方を学びました。初めてやってみたけど、とても楽しかったです。臨時部員・直枝理樹

 クドは燃えている。ぼくらの頑張りに触発されたみたいだ。
「よ~し……がんばるぞっ」
 さっきより速く編み針を動かしていくクド。
 西園さんは道具を片付けたあと、お茶をぼくたち三人に淹れてくれて、その後は一人で本を読んでいる。
 ぼくは畳の上に楽な姿勢で腰かけながら、猛烈に頑張っている彼女の姿に見とれている。
 頑張る彼女を見ているのは、なにか気分のいい感じがする……。

「よし、これで、ええい……わ~ふぅ~! できましたー!」
 クドが完成品を持って、高々と掲げている。ぼくと西園さんは拍手。
「やったぁ~! よ~し書くぞぉ~」
 早速活動日誌を開いて、お絵かきを始めている。
「え、絵も描くの?」
「はい? いつもそうですよ」
 冗談だろ、と思ったら、ほんとだった……。
 過去の日誌をめくると、そのほとんどが、クド(?)と思しき人物を中心とした、華やかな絵日記となっている。小学生か……。
「じゃ~ん! 色えんぴつです~!」
「……」
 まあ、いいですけど……。
 
 リキと美魚さんの3人で、お裁縫をしました! 楽しかったです。はっぴー! 能美クドリャフカ

 その下にぼく(?)と西園さん(?)が楽しくお裁縫をしている絵が載っている。
 意外と絵心もあるんだね……多才な子だな……。

「ありがとうございました! お二人とも!」
「いやいや。いい勉強になったし」
 ぼくとクドと西園さんは、お茶を飲みながら、完成品を見せ合った。
「わたしももう一つブックカバーを欲しいと思っていたんです。ですからいい機会でした」
「なるほど~……これであとは部員が増えてくれればいいんですけど~……」
「野球の練習もやっていて、学校の宿題もあって、それで部の活動は大変じゃない?」
 ちょっと不安になって聞いてみたのだが、彼女は楽しそうに首を横にふる。
「全然そんなことありません! まあ、確かに大変ですけど、毎日充実していて、楽しいです!」
「そ、そうなんだ……」
 なんていい子なんだろう。
 漫画ばっかり読んで「人生これでいいな、わりと」なんて言っている鈴に聞かせてやりたい!
「あとで募集ポスターかけてみますっ!」
「わたしの名前もどうぞ使ってください」
「うん。よかったら、ぼくのも。取りあえず部員が三人いれば、部費は出なくても、ここの部屋はまだ使っていてもいいんじゃないかな?」
 クドは驚いて、こちらを見てふるふるとふるえ出した。
「リキ、美魚さん……」
 そしてぼくたち二人に抱きついて、
「わぁ~ふぅ~! せんきゅー! ありがとうなのです~! それじゃああとで入部用紙を持って来ます! ありがとうです~!」
「わわ、ちょっと!」
「あ、そうだっ!」
 彼女は、あることに気がつくと、自分がさっき作成した、ピンクの毛糸の手袋を持ってぼくの手に渡した。
「リキ。これをプレゼントです!」
「え……これ、さっきの」
「はい。ほんとうは、わたしが自分で使う予定でしたけど、今日手伝ってくれたお礼です! はめてみてください!」
 ちょっと……感動した。
 クド。ありがとう。
 ぼくでよかったら、いつでも部の活動に参加するよ。たいしたことはできないけどさ……。
 でも今日は彼女の親切さに甘えて、このプレゼントをいただくことに……
 ん?
 あれ??
「は……はまらない……!?」
 どうも布がつっぱってしまうぞ!
「あーっ!」
 クドは頭を抱えて叫ぶ。
「サイズ、わたし用のままでしたぁ~っ!」
 そうだ。
 そりゃ、当たり前だよね……。

 クドと西園さんとぼくとで、こうして楽しい週末の一日を送ったわけだけど、外に出ると涼しい風も吹き始めていて、本格的に冬が近づいて来ているという実感がわいてくる。
 手袋は、なんとクドがもう一度サイズ直ししてくれることになったし、西園さんは裁縫の勉強だったらわたしが教えてあげますと言ってくれた。
 最後にクドと手の大きさの比べっこをしたんだけど、彼女の手はまるで子供みたいに小さく、かつ細くて、大理石みたいにすべすべで冷たいのに、手のひらはどこか温かく、彼女の元気さや親切さは、きっと彼女の心の中心からやって来るのだ、という思いがしてならなかった。
「リキって、やっぱり男の子です!」
 それは手が大きいという意味だろうか?
 彼女は笑って、答えないで、そのままパタパタと走っていったので、ぼくはその背中をじっと眺めて、あとからゆっくりと追いかけていった。
 
 終わり
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2014.11.18 / Top↑
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