小説・文学系の話題が主。ときに自作を載っけたりもする予定。ときにリアル話題。

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 ぼくたちは平穏な日常を送っている。
 そのはずだった。
 ……だけど、何だろう? この違和感。
 ぼくたちはこんなに妙な間柄だったろうか?



 たった5人しかいないメンバー。部屋に閉じこもっている恭介。ひたすらバトルに明け暮れる真人。教室と剣道場をただ無心に行き来する謙吾。
 そして……、
「鈴? 今日はどんなことをしたの?」
「あ、理樹! 聞いてくれ、ちーちゃんがな、たろーのこといじめてばっかりだから……めっ! って怒ってな……」
 鈴は心を閉ざしてしまっている。
 ぼく以外の同級生とは話もできず、わずか5歳の保育園通いの子たちとしか打ち解けられない女の子。もう……ぼくは慣れてしまったけれど。
「それでな、ちーちゃんがわけを話してくれたんだ」
 ぼくたちの住む世界は、どこか異質だ。
 そんな気がする。
 ただ、そんな疑念を事実とする勇気だけが足りない……。
「おい、理樹、聞いてんのか?」
「あ。う、うん……」
「ちーちゃん、たろーのことほんとうは好きだったんだ……! どうだ、びっくりしたろ!?」
 ぼくはいまいち確信が持てない。
 大昔からぼくたちは、ずっとこうだった気もするし、ただの幼馴染みだっていうだけで……たまに話をする友人たちとなんら変わりがない……言ってしまえば、ただの腐れ縁のような関係で、いつ切れてもおかしくない関係……。
 それがただ惰性で続いているだけの……何でもない知り合いみたいな。
「明日仲直りするときに、告白すればいいって言ったんだ。でもちーちゃん、あたしがいないとだめだっていうから、しょーがないなーって……」
「あのさ、鈴?」
「うん?」
 彼女の顔を見つめる。
 ちょうど街灯の真下で、彼女の顔がはっきりとよく見える。
 ただその後ろから先は、闇に包まれている。
「まだ、ぼくたちのところに戻って来れそうには……」
「え?」
 ふと不安げな様子になる。
 彼女は怖がっている。ぼくらのことを……そしてその他大勢の見知らぬ人々を。
 そして……おそらく、ぼく自身のことも。
「ごめん……無理、だよね……気にしないで。ただ、元気は戻ったかなって、ちょっと聞いただけだから……」
「ああ、それでなー……」
 ぼくは疑問を持つ。
 ほんとうに、こんなぼくたちだったろうか?
 真人に尋ねてみる。
「あ? なんだおまえ、やぶから棒によ」
 彼は腕を組んで聞き返す。
「おまえはオレとは友達だと思うがよ、謙吾と恭介とは……まあ、なんつーか……腐れ縁みてーなもんだろ?」
「でも、昔はあんなに仲良かったじゃない? よく色んなミッションに挑戦してみたりしてさ……」
「ミッション? はて……」
 真人は頭をかく。ぼくの質問に面倒そうに溜め息をつく。
「オレはあんま覚えてねーなー……テスト問題すら、すぐ忘れちまうからよ……」
 ぼくはこれ以上真人と問答しても無駄だと思い、部屋を出て行く。
「おーい! どこ行くんだよ?」
「散歩……」
「こんな夜中にか?」
「たまにはいいでしょ?」
 そう言うと、真人はさして引き留めもせず、筋トレを再開して、「いってらっさー」と気の抜けた挨拶を告げる。
 ぼくは真人に対して苛立っていた。
 わけのわからない心の痛みだった。
 自分の心の奥底にある記憶が傷つけられたような……でも、真人とかつて、一緒に夜に散歩した記憶もないのだし、彼が恭介や謙吾について、良いことを言った記憶も、ここ最近ではないのだった……。
 
 夜、出歩いても、ここの学校では何も言われない……。
 先生なんて、いても実際いないようなものだし、パトロールする風紀委員もいない……。
 だから、夜中庭に来て、思う存分考えに身を任せることもできる。
 ベンチに座って、じっと草の茂みを眺めている。……そこに答えがあるわけではない……だけど、この世界の謎……秘密……それをぼくは解き明かさなくてはならない。
 そんな気がしていた。
 だからぼくはどんなものにも目を光らせる。
 空を見上げると、夜空はどっしりと分厚い雲に覆われて、はなはだ不快な気分にさせられる。天気予報では、これからずっと雨のようだ。明日から、ずっと……雨。
 雨。
 暗い記憶がよみがえってくる。
 ぼくは、知らないはずの人と、いっしょに会話している……たぶん親密に。
 でもそれはただの夢で、おぼろげな一夜の記憶に過ぎない……だけど消せなくて……ぼくを不安な気持ちにさせてくる。
 そのころは恭介を実際の兄のように慕っていた。だけど今は、あんまり話したことすらない人のように、ぼくは彼を見つめている。
 この謎の鍵はどこか?
 恭介だ。
 恭介に、会いに行こう……もう一度。
 
 ぼくはたぶん、世界の秘密というやつに……もう少しでたどり着けるところまで来ている?
 彼のすすけた部屋の扉を前にして、思う。
 ここからたぶん、ぼくたちを取り巻いている不可思議な冷たさは発生しているのだし、ぼくたち自身が仲間を信じられなくなったのも、恭介に原因があるのだと思う。
 少しためらった後、ぼくはドアをノックする。
 返事がない。
 しばらく待ってから、もう一度ノックする。
「……入れよ」
 かぼそい声が、聞こえてきた。
「恭介?」
「よう……何だ……理樹かよ?……」
 彼は真っ暗な部屋のどこかから、ぼくに声をかけてきた。
「何か、……用か?」
「ぼく、ちょっと、今の状況がおかしいって思っているんだ」
 返事はない。ぼくは続ける。
「なるべく率直に言うけど……ぼくたち、元はこんなふうじゃなかったって思う」
「よくわかるよ」
 わかる? どういうことだろう?
「今、おまえがそういうふうに、思っているってことはさ……わかる。当然だ」
「じゃあ……恭介は、今どんなふうに考えているの?」
「特に何も……」
「おかしいよ。ねえ、恭介?」
 彼は返事をしない。
「理樹……おまえは……世界の秘密を見つけたのか?」
 しばらく経ってから、彼はそう言った。
「秘密? 秘密って、何だよ?」
「見つけてないんだな……」
「分かるわけないよ。この世界が、どういう物質で形作られているかっていう話?」
 彼は大儀そうに溜め息をつく。
 病気なんだろうか。ぼくは早口で彼に告げる。
「秘密だとか、そういうスピリチュアルなことは分からないけど、でもぼくは、こんな世界になってしまったのは、恭介、きみにすべての原因があると思っている」
「……理樹、よう」
「なに?」
「まだまだだな……それじゃ、満点はやれないさ……俺に言わせれば、おまえにすべての原因があると思われる……」
「ぼく?」
「思い出してみろよ……自分がどんなことをしたのかを……果たして、どんなことをしなかったのか、を……鈴のことをどうした? 迫ってくる脅威に対して、おまえは一体何をしていた?」
「と、特に何も……鈴のことを言っているの? ああなっちゃったのは、幼いころの事件が原因で……その時、ぼくと鈴はまだ出会ってもなくて……」
 ぼくは言い訳をしている自分に、どこか腹が立ち始めていた。
 ちがう。そうじゃない。
 彼の言いたいことは、もっとシンプルなことで、この世界のことではなくて、今までぼくが生存してきた数だけ存在する、ぼくという全存在について言っているのだと、どこか確信していた。
 ぼくは逃げの手を打った。けど……自分のことは誤魔化せなかった。
「まあ、いいさ……もうすぐ、またしばらく時が戻るからな……」
「なんだって?」
「理樹よ……寝かせてくれ……。一睡もしてないんだ……せめてそのドアを閉めてくれよ……」
 ぼくはドアを閉めた。真っ暗闇になった。
 異常に散乱した彼の部屋が、暗闇の中で浮かび上がってくる。ぼくの目は彼がどこに座っているのかを、鋭く探し当てる。
「理樹……いるか?」
「いるよ……」
「おまえだけが頼りだ……頼むから、このまま……」
 彼はゆっくりと続ける。
「このまま……だめになるな……俺のやり方は良くなかった……今、痛感している……やっちまったんだ……」
「うん」
 彼の言っていることは理解できなかった。けど、黙って聞いておいたほうがよさそうだった。
「だから、理樹……あきらめるんじゃない……最後まで希望を持て……」
「ぼくは……」
 鈴や真人を見るたびに、心が痛む。自分の殻に閉じこもってしまい、何物にも注意を払わなくなってしまった、みんなを見るたびに。
 でも、ぼくだけがなんとか正気を保っているように感じられたから、確かに彼の言うとおり、ぼくにすべての鍵が握られているってことで正しいのかもしれない。
「恭介、ぼくは何をすればいいの?」
「よく見ろ……」
「何を?」
「へっ……そこまでは教えてやれねぇ……わりぃな」
「恭介ってさ、ずっと今までそうだったよね?」
「あ?」
「ぼくや鈴のことを、ずっとそうやって遠くから眺めていてさ、ぼくたちが疎遠になっていっても、なんにも手を貸さなかったっていうか……」
 彼は、力なく笑うだけで、そのことには何も言及しなかった。
「いいか、理樹……時間が、いつか巻き戻される……でも失った時間は戻らない……」
「うん」
 何を言っているのか、分からない。でも失ったものは、もう戻らないというところだけ同意はできる。
「だから進め……自分の足で……鈴をまず、あそこから連れ戻せ……」
「どうやって?」
「だから、」彼は力なく笑って、
「世界の謎を解き明かすんだ」
 そして、と続ける。
「そのためには……」
「そのためには?」
 彼は笑い、
「俺なんかに、もうかまうな」
「……」
 ぼくは恭介の部屋をあとにした。
 もう暗くなった廊下で一人になる。
 消灯時間になっても、誰も注意しに来ない。それに、誰も部屋を行き来する様子がない。
 飲み物を売っている自販機。お金を入れてボタンを押しても、何の反応もない。
 ただぼんやりと輝いているだけで、驚くほどひんやりとしている。
 ここに何らかの秘密が?
 廊下には埃が溜まっている。誰も掃除をしていないみたいだ。ぼくの上履きがどんどん汚れていく……。
 部屋には真人がいるだろうか? 謙吾はもう寝てしまっているだろうか?
 そうか。
 もう……ぼくだけなんだ。
 この問題に取りかかろうとしているのは……。
 ぼくはまず冷静にこの問題を扱った。いくつか気になるところをピックアップし、徹底的に検証してみた。
 それが何の意味も為さないと分かると、今度はあらゆる事実をテーマに従って関連づけてみることにする。だがそれはびっくりするくらい関連性のないもので、断片的すぎた。
 ただひとつ、印象深かったのは、恭介が
「おまえにすべての原因がある」
 と、ぼくに言ったことだ。
 ぼくの頭は今までにないくらい回転し始めていた。感傷的になるのはやめて、冷静にその事実の整合性を検討し始めた。
 だんだんと、ほどけかけてきた網目。
 ぼくにはそれがはっきりと見えていた。暗闇の中に吊された、一本の蝋燭のように。
 はっきりと分かった。
 ぼくが今まで見てきたものは、すべてかりそめであり、ほんとうの事実は……、
 恭介の部屋にも、謙吾の冷たさにも、真人の無関心にもなくて、ほんとうは……、
 ぼくと鈴の繋がれた手。
 それがあの時、はなれてしまったことにあったんだ。……
 その事実にたどり着いた、その瞬間。
 地震が起きて、世界は暗転した。
 すべての経験はまた、消えていった……。
 すべてが破壊されてしまい、なかったことにされてしまった。
 ただ、ぼくは……、
 ぼくは……、
 立ち向かい続ける……という明確な意思を持って、新たなる世界に臨んでいく。
 そんなつもりになっていた。そんな気持ちに支配されていた。
 それがどこから来たのか、おぼろげな記憶しか持たないのに。
 でも、
 ぼくは立っていた。
 この世界で唯一、真っ向から立っている。
 何者かがぼくたちをバラバラにしてしまおうとする、その脅威に向かって。
 だんだんと、分かったことがある。
 これが恭介の、ぼくに向かって言いたいことであったんだ……。
 これがぼくの、一番大事に取り扱わなきゃいけない問題点だったんだ……。
 そうなればあとは、やるだけだ。
 あとは、戦いの始まりを告げるだけだった……。
 リトルバスターズをもう一度作り直す。
 もう一度、ぼく自身からスタートする。
 ぼくの手で……!
 ぼくの力によって……!!

 おわり
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2014.12.11 / Top↑
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